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2018.03.07

血糖自己測定の重要性を理解することが痛みを軽減:糖尿病患者と医師の関係性が大きく関与 -関西電力病院/関西電力医学研究所

2018年3月5日
関西電力病院/関西電力医研究所

血糖自己測定の重要性を理解することが痛みを軽減:糖尿病患者と医師の関係性が大きく関与

【ポイント】
*全国42医療機関で血糖自己測定をしている1型糖尿病、2型糖尿病の患者さん(2,165人)と担当する医師(142人)を対象に血糖自己測定や生活の質(QOL)に関するアンケート調査をおこないました。
*血糖自己測定をすることに痛みを感じる患者さんは、血糖自己測定の重要性を十分に理解できておらず、精神的にも苦痛を感じており、QOLが低下していることが示唆されました。また、痛みを強く感じる患者さんは、血糖コントロールも良くないことが分かりました。
*担当医が患者さんの日本糖尿病協会の自己管理ノートに記載された測定結果をしっかりと確認して適切なアドバイスを与えることで患者さんが血糖自己測定の重要性を理解でき、さらには痛みが軽減されることが示唆されました。

【概要】
関西電力医学研究所 所長/関西電力病院 総長 清野 裕、同研究所 副所長 矢部 大介、同研究所 特別研究員 田中永昭らの研究グループは、全国の医療機関(合計42施設)の協力を得て1型糖尿病、2型糖尿病の患者さん(2,165人)と担当する医師(142人)を対象に血糖自己測定や生活の質(QOL)に関するアンケート調査をおこないました。自己血糖測定(SMBG)は、インスリン治療中の1型糖尿病、2型糖尿病の患者さんにとって不可欠ですが、実施する患者さんの精神的負担やQOLを評価した研究はありませんでした。今回、同研究所では全国42の医療機関の協力を得て、糖尿病患者さんと担当医にアンケート調査を行いました。その結果、SMBGの際に痛みを感じる患者さんは、SMBGの重要性を十分に理解できていないために、精神的にも苦痛を感じており、QOLが低下していることが示唆されました。また、痛みを強く感じる患者さんは、血糖コントロールも良くないことが分かりました。さらに患者さんの日本糖尿病協会の自己管理ノートに記載された測定結果をしっかりと確認して適切なアドバイスを与えることで患者さんがSMBGの重要性を理解でき、さらには痛みが軽減されることが示唆されました。これら結果を踏まえ、同グループは、患者さんがSMBGの意義を十分に理解できるように担当する医師が測定結果をしっかりと確認して適切なアドバイスを与えることが重要であると結論づけています。

本研究成果は、2018年3月4日にアジア糖尿病学会機関誌「Journal of Diabetes Investigation」(オンライン版)で公開されました。

注)自己血糖測定(SMBG)とは:糖尿病患者さん自身で携帯し血糖測定が可能な器具です。指先を細い針で穿刺し、ごく少量の血液を採取して血糖測定を行います。食前、食後、低血糖時など、様々なタイミングで血糖測定を行うことができ、その結果をもとに糖尿病の自己管理に役立てることができます。主にインスリン療法を実施中の糖尿病患者さんに保険適応が認められています。

【研究成果】
関西電力医学研究所の研究グループは、関西電力病院(大阪市福島区)を含む全国の医療機関(合計42施設)の協力を得て横断的にアンケート調査を行い、2016年10月~2017年1月にかけて、外来通院中の1型糖尿病、2型糖尿病の患者さんを対象に、気分状態を調査するProfiles of Mood States 2nd edition (POMS2)、糖尿病治療に関連するQOLを調査するDiabetes Treatment-related QOL (DTR-QOL)を実施しました。さらに、今回、自己血糖測定(SMBG)に関する質問票を独自に作成し、POMS2やDTR-QOLと合わせて患者さんに回答してもらいました。さらに、医師用にSMBGに関する質問表を独自作製し、担当する医師に実施してもらいました。1型糖尿病患者さん 517名、2型糖尿病患者さん 1648名が、担当医142名がアンケート調査に回答してくれました。まず、患者さんに対するSMBGに関する質問票の「あなたは血糖測定をすることに苦痛を感じますか?」という問いに対して、1型糖尿病患者さん、2型糖尿病患者さん共に、「まあまあそう思う」、「かなりそう思う」と回答した患者さん(痛みを感じる群)は、「ほとんど思わない」、「あまり思わない」と回答した患者さん(痛みを感じない群)と比較して、否定的な感情が高く、QOLが低い結果となりました。さらに、痛みを感じる群は、HbA1cも高い結果となりました。また、痛みを感じる群は、「あなたは血糖値を測定することが重要であると思いますか?」という問いに対して、肯定的に回答した患者さんが有意に少ない結果となりました。担当医に関する質問票において、「あなたは血糖測定の記録を診察のたびに毎回チェックしていますか?」という質問に対して、全担当医のうち98.6%が「まあまあしている」「かなりしている」と回答しました。興味深いことに、「あなたは血糖測定の記録を診察のたびに毎回チェックしていますか?」という問いに対する担当医の回答と、「あなたは血糖値を測定することが重要であると思いますか?」という問いに対する患者さんの回答が相関を示すことがわかりました。この結果から、患者さんの日本糖尿病協会の自己管理ノートに記載された測定結果をしっかりと確認して適切なアドバイスを与えることで患者さんがSMBGの重要性を理解でき、さらには痛みが軽減されることが示唆されました。

【波及効果】
SMBGに対する精神的負担を軽減するために担当医師の役割がなお一層重要である可能性を示した本研究の成果が周知されることで、インスリン治療中の1型糖尿病、2型糖尿病の患者さんが、SMBGをより有効に活用できるようになると期待されます。

【今後の予定】
患者さんの日本糖尿病協会の自己管理ノートに記載された測定結果をしっかりと確認して適切なアドバイスをおこなえることを助けるツールを作成し、その効果を前向き介入試験で証明していくことを予定しています。

20180305SMBC調査研究_図

図1 自己血糖測定からくる精神的負担の軽減に対する担当医師の役割
① 自己血糖測定(SMBG)に対して痛みを感じる糖尿病患者さんは、SMBGの重要性を十分に理解できておらず、精神的にも苦痛を感じており、QOLが低下していることが少なくありません。また、このような患者さんでは、血糖コントロールが不十分であることも分かりました。
② 担当医が、患者さんの自己管理ノート(日本糖尿病協会発行)に記載された測定結果をしっかりと確認して適切なアドバイスを与えることで、患者さんがSMBGの重要性を理解でき、さらには痛みが軽減される可能性があることがわかりました。

【論文タイトルと著者】
論文名
Mental distress and health-related quality of life among type 1 and type 2 diabetes patients using self-monitoring of blood glucose: A cross-sectional questionnaire study in Japan
掲載雑誌
Journal of Diabetes Investigation
著者
Nagaaki Tanaka, Daisuke Yabe, Kenta Murotani, Hitoshi Kuwata, Yoshiyuki Hamamoto, Takeshi Kurose, Nobuo Takahashi, Tomoyuki Akashi, Takashi Matsuoka, Takeshi Osonoi, Masae Minami, Dai Shimono, Yutaka Seino on behalf of the Positive SMBG Study Group Investigators
DOI
doi: 10.1111/jdi.12827
URL
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jdi.12827/full

【本研究への支援】
本研究は、下記の機関から資金的支援を受けて実施されました。
テルモ株式会社

【責任著者】
関西電力医学研究所
所長 清野 裕(E-mail: seino.yutaka@e2.kepco.co.jp)

【お問い合わせ】
関西電力医学研究所 糖尿病研究センター 糖尿病・内分泌研究部
部長 矢部 大介(E-mail:ydaisuke-kyoto@umin.ac.jp)
研究員 田中永昭(E-mail: nagaakitanaka@nifty.com)

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