関西電力医学研究所 睡眠医学研究部 部長
関西電力病院 睡眠関連疾患センター センター長
睡眠関連疾患は従来の縦割の講座・標榜科目の中だけでは診断・治療が完結しないという特徴をもつ。米国においては、睡眠医学を担うハード面としての要素として睡眠センターをつくることによって総合的に診療に携わると同時に、他の医学分野と相補しあう形で臨床研究を行い、次世代への教育や一般市民への啓発活動が成されていったが、日本では睡眠医学という専門分野そのものが認知されていない。こういった事情の下、当研究部での研究活動としては、従来の狭義の医学研究のみならず、医療従事者や一般市民に対して睡眠に関係する内容のうち、何をどのように伝えていくべきかという方法論を打ち立てることも大きな研究テーマとしている。なお、当研究部は、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻における連携大学院となっており、大学院生の受け入れが可能である。
https://sahswww.med.osaka-u.ac.jp/jpn/departments/renkei.html#80
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は、寝ている間に舌や喉の部分の筋肉の緊張が取れ、その部分が狭くなったり塞がったりすることで起こります。この結果、頻回に血中の酸素が減少し、自覚できないような短い目覚めが起こります。これにより、心臓や血管の病気のリスクが高まり、睡眠の質が悪くなって、日中に強い眠気を感じることがあります。日本では、30歳から69歳の約940万人(14%)がOSASにかかっていると推計されており、社会にも大きな影響を与えています。
これまで、日本ではOSASのスクリーニング検査では、無呼吸や低呼吸の回数、または血中の酸素が減少した回数にだけ注目されてきました。しかし、本人が感じている症状や他の病気、生活の質についてはあまり考慮されていませんでした。
2024年より、関西メディカルネット会員を対象に、定期人間ドックの一環として睡眠ドックを実施しています。OSASのスクリーニングが中心になりますが、従来の数値だけでなく、睡眠・覚醒状態についての自覚症状や心配事、全体的な健康状態に関する情報を集め、適切なアドバイスを返す方法を調べていきます。さらに、睡眠に関する教育や、専門医の診察、精密検査、治療をスムーズに行えるシステムを作り、基礎データの蓄積に努めていきます。
前述の通り、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は、睡眠中に上気道が狭くなることで健康に悪影響を及ぼす病気です。その治療方法として、経鼻的持続陽圧呼吸(CPAP)療法が第一選択肢とされています。CPAPは、睡眠中に鼻に装着したマスクを通して空気を送り込み、喉の部分が塞がるのを防ぐ仕組みです。しかし、この治療は鼻呼吸の影響を大きく受けるため、患者によっては継続的に使用するのが難しい場合があります。
実際、CPAPを使用する患者の29〜89%に、治療を続ける上での継続の問題(アドヒアランス不良)が見られます。国内でも50万人以上がCPAPを使用しているにもかかわらず、アドヒアランス向上のための取り組みはまだ十分ではありません。
特にCPAP使用時に鼻づまり(鼻閉)を訴える患者が多く、その原因にはいくつか異なるタイプがあると考えられています。私たちは、CPAP使用中の鼻の構造的な特徴や空気の流れが鼻づまりの原因の一つである可能性を探っています。そのため、新しい評価方法として音響鼻気圧測定システムを導入し、鼻づまりのタイプを分類する取り組みを進めています。
また、鼻の通気性は加湿によって改善されることが一般的に知られています。私たちは、2024年から2025年にかけて、加湿器が内蔵されていないCPAP装置から、加湿器を内蔵したCPAPへと変更することで、快適性やアドヒアランスがどのように改善されていくかを調べていきます。
ナルコレプシーは、特に思春期に多く見られる過度の眠気を引き起こす病気の一例です。この病気は、治療によって生活の質を改善することができますが、症状が現れてから正しく診断されるまでに時間がかかることがよくあります。その理由として、一般の人だけでなく、医療従事者の間でもナルコレプシーに対する理解が十分でないことが考えられます。
そこで私たちは、関西電力病院でナルコレプシーと診断された患者について、インタビューや過去の診療記録を分析し、症状が現れた後にどのような受診行動をとったか、最初に受診した病院でどのように診断され、どんな検査を受けたのか、また、どうして当院に紹介されることになったのかを調べました。
ナルコレプシーは一般的に思春期に発症しますが、学生時代は受験勉強に忙しく、眠気が問題視されないことが多いです。そして、社会人になってから職場で眠気が問題となり、受診する患者が多いことがわかりました。また、どの病院に行けばよいか分からず、当院に来るまでに時間がかかるケースも多く見られました。
さらに、精神科や脳神経内科の医師でも、ナルコレプシーの知識が不十分なことがあり、特に感情の高まりによって一時的に筋肉の力が抜ける「カタプレキシー」という症状を、てんかんと誤診することがあることもわかりました。
そのため、ナルコレプシーに関する知識は、両親、学校の保健室の先生、職場の健康管理担当者、保健師、産業医、一般の開業医や専門医といった、あらゆる人に必要です。2024年から2025年にかけて、こうした人々への啓発活動を進めていく予定です。
著者 | 論文題目 |
Ferri R, Lewis SJG, De Cock VC, Tachibana N, Kushida CA, Schenck CH. | The polysomnographic diagnosis of REM sleep behavior disorder: to change or not to change, that is the question. Sleep. 2023 Jan 11;46(1):zsac261. doi: 10.1093/sleep/zsac261. PMID: 36472560. |
Kido K, Tachibana N | The new procedure for manual CPAP titration: the afternoon CPAP titration (aPT). J Med Invest 68: 170-174, 2021. |
Provini F and Tachibana N | Acute REM sleep behavior disorder. In: Schenck C, Hogl B, Videnovic A eds. Rapid-Eye-Movement Sleep Behavior Disorder, Springer, pp153-172, 2019. |
著者 | タイトル | 掲載誌名 | |
掲載号・ページ | 掲載年 | ||
Schenck CH, Cochen de Cock V, Lewis SJG, Tachibana N, Kushida C, Ferri R. | Partial endorsement of: “Video-polysomnography procedures for diagnosis of rapid eye movement sleep behavior disorder (RBD) and the identification of its prodromal stages: Guidelines from the International RBD Study Group” by the World Sleep Society. | Sleep Med. | |
2023 Oct;110:137-145. doi: 10.1016/j.sleep.2023.07.012. Epub 20 | 2023年 |
著者 | タイトル | 掲載誌名 | |
掲載号・ページ | 掲載年 | ||
立花 直子 | 睡眠関連疾患の鑑別診断 終夜睡眠ポリグラフ検査を施行すべきポイント | 精神科治療学 | |
38(6):653-659 | 2023年 |
会名称 | 参加形態・発表テーマ | 発表者 | |
日程 | 場所 | ||
第64回日本神経学会学術大会 | Treatment strategy for long-term management of patients with restless legs syndrome | Naoko Tachibana | |
2023年5月 | 幕張 | ||
第36回日本口腔・咽頭科学会総会・学術講演会 | シンポジウム2 どうするOSA どうするCPAPタイトレーション? “one-size-fits-all”にならないCPAP療法を考える |
三原丈直 | |
2023年9月 | 高知 | ||
第53回日本臨床神経生理学会学術大会 | 脳神経分野における睡眠ポリグラフ検査 | 立花直子 | |
2023年11-12月 | 福岡 |
部長 | 立花 直子 |
特別研究員 | 三原 丈直 |
上級特別研究員 | 紀戸 恵介 |
上級特別研究員 | 和田 晋一 |
客員研究員 | 清水 春香 |
客員研究員 | 茶谷 裕 |
客員研究員 | 月田 和人 |
客員研究員 | 新美 完 |
客員研究員 | 辻 雄太 |