関西電力医学研究所
医学教育研究部では,糖尿病・腎臓病・肝臓病など慢性疾患患者に対する教育指導方法の検討,資材の開発,アウトカムの評価についての研究を行うことを第一目標とする。
その趣旨は、病院臨床において、チーム医療を推進し,医師,看護師,管理栄養士,薬剤師,理学療法士,臨床検査技師、臨床心理士など,多業種スタッフが連携して、患者と家族の個別性、地域性に合わせた適切な療養環境を提供し,ニーズに合った支援を継続していけるよう、多角的なアプローチを模索し、得られた知見に基づいて、よりよい医療の在り方を求めて研究を進めることにある。
具体的に現在進行している研究分野は、糖尿病である。従来医学的な視点から進められてきた糖尿病の療養教育である食事改善,生活改善に加えて、患者の心の教育を実施することの有効性が注目され、受け入れられつつある現状を鑑み、本研究では,糖尿病者を対象に,心の健康度調査を実施し,糖尿病者の心理的特徴及び心理的課題を整理・解明した上で,臨床心理学および教育学の視点を導入した,より実効的な療養教育プログラムを開発・実践し,その効果を検証することを目標として研究中である。日本人の文化特性を加味した独自の手法による療養教育プログラムの構築が,国内で300万人を超える糖尿病者のQOLの改善を促進すると考える。
2019年度までの研究課題で得られた結果は次のとおりである。
糖尿病患者はだれでも「病者」からできればはやく逃れ,もとの健康な状態にもどることを希求して運動療法や食事療法に励みますが,糖尿病は完治しないやまいであることを知った時に,「やまい」と人間が生きる日々の営みとの深い連関を自覚し,「病を持たない自己像」から脱却して「糖尿病を抱えて生きる自己像」へと変換するという,人生の課題に直面させられます.このことは糖尿病を得たことによって迫ってきた人生の辛い,できれば避けたい転換でありますが,分析心理学者のユングが指摘するように、考えようによっては,罹病は、我々のだれもが出会う人生の転換点の一つであり,自分の人生設計を作り直すきっかけにもなりえます.「やまいの完治」に固執せず、「糖尿病を抱えて生きる人生」を幸せ感を持って享受し,天寿を全うする積極的な生き方へとシフトしていくことが、これからの糖尿病医療のなかで求められていくものと考える。
①心理的健康度検査「BUKK」の開発と糖尿病者の特徴的心理の分析
②ストレスとウェルビーイングの測定をベースに,より包括的に糖尿病者の幸福度を測定する項目を設定し,糖尿病者の幸福度の様相を明らかにする
③糖尿病の疫学的評価指標HbA1cの改善に影響する心理学的評価指標の有効性に関する探索的研究
④糖尿病者の心理的状態の経時的変化を臨床心理学的に把握し、糖尿病の疫学的指標であるHbA1cの変化との関係を追及することをとおして、糖尿病の改善に影響する心理的要因を明らかにすること
⑤心理療法の事例研究から、糖尿病とともに生きることの意味、治療の課題などについての知見を得ること
⑥上記の研究結果によって得られたエビデンスをヒントに、効果的療養指導教育プログラムの構築
①糖尿病者の現実的を受け入れられない葛藤状況を自らの主体性によって脱却しようという意識は薄い。家族の絆、医療者に依存したい欲求は罹患期間と加齢とともにあきらめへと傾く傾向を、臨床心理士の心理的介入の施行によって変容する可能性を得た。
②「箱庭」制作実験によって、継続的心理介入体験者は、心理介入体験しない場合に比べて、「病者としての自己」の現実とネガティブ感情葛藤を受容しつつ、「心の健康な自己」の実現をめざす方向へと変容する傾向が実証的に確かめられた。糖尿病治療、療養指導に必要な視点として糖尿病者の「こころとからだの全体像」を視野にとらえる具体的手立ての一つとなる可能性がうかがえた。
③医学的治療の視点にとどまらず、「ライフサイクル課題」および「ウエルビーイング」の視点から糖尿病治療と療養の在り方を検討することが課題である。
今年度の研究課題は、先の結果と課題を踏まえ、以下の研究課題が設定された。
少しずつ具体化する方針である。
①糖尿病患者教育、支援の理念と課題
②心のケアの臨床的意義
③心のケアの実践システムと技法
①患者の深層心理を把握する方法としての箱庭法の実験
②先行研究による「ストレス」と「ウエルビーイング」の測定結果との関連性
③事例研究的に糖尿病患者における人格的成長過程の可能性検証
会名称 | 発表テーマ | 発表者 | |
日程 | 場所 | ||
日本糖尿病医療学会 | カールロジャーズの理論と臨床 | 東山弘子 | |
2019.9.16 | 京都大学 |
部長 | 東山 弘子 |
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