2023.04.28
【本研究のポイント】
・低栄養を伴う入院中の後期高齢者に対して、日々の食事でたんぱく質の摂取量を増やす栄養指導が筋力や筋量、日常生活動作(ADL)の維持・改善に貢献しうるかを多施設共同ランダム化比較試験で検討しました。
・試験参加者を強化治療群と標準治療群にランダムに割付け、1日のたんぱく質摂取量の目標を強化治療群では1.5 g/kg体重/日、標準治療群では1.0 g/kg体重/日として管理栄養士が継続的に指導しました。
・標準治療群と比較して、強化治療群では、握力の有意な改善を認め、骨格筋指数やADL指標であるBarthel指標、Lawton尺度もより改善傾向にありました。
・低栄養を伴う後期高齢者の筋力改善に対して、日々の食事を工夫してたんぱく質の摂取量を増やす栄養指導の有効性が確認されました。
【研究概要】
超高齢社会を迎えた日本では、健康寿命、すなわち、『健康上の問題で日常生活動作(ADL, Activities of Daily Living)(注1)が制限されることなく生活できる期間』をいかに延長するかが喫緊の課題となっています。本研究では、「治療可能ながん」や「肺炎」、「骨折」、「尿路感染症」の治療目的で国内の7つの医療機関に入院中で低栄養を伴う後期高齢者を対象に、退院前及び退院後に日々の食事でたんぱく質の摂取量を増やすことが握力や骨格筋指数、ADLを改善しうるか検討すべく、6か月間の多施設共同探索的無作為化比較試験を実施しました。主要評価項目として、握力、骨格筋指数(SMI, Skeletal Muscle Index)(注2)、ADL評価指標であるBarthel指標、Lawton尺度の変化量を評価しました。169名の対象者を強化治療群83人と標準治療群86人に無作為に割付け、1日のたんぱく質摂取量の目標を、強化治療群では1.5 g/kg体重/日、標準治療群では1.0 g/kg体重/日となるよう、管理栄養士が継続的に指導しました。6か月間観察ができ、かつ予定した臨床データを全て収集できた、強化治療群44人、標準治療群49人を解析しました。
強化治療群では、標準治療群に比して、握力の有意な改善を認めました(6ヵ月間の握力の変化量:強化治療群 +1.11 kg、標準治療群 -0.18 kg)。骨格筋指数(強化治療群 +0.07 kg/m2、標準治療群 +0.02 kg/m2)、Barthel指標(強化治療群 +1.71点、標準治療群 +0.61点)、Lawton尺度(強化治療群 +0.07 kg/m2、標準治療群 +0.02 kg/m2)は、標準治療群に比べて、強化治療群でより改善する傾向を認めましたが、統計学的に有意ではありませんでした。
以上から、さまざまな病気の後期高齢者に対して、日々の食事を工夫してたんぱく質の摂取量を増やすよう、管理栄養士が継続的に指導することが筋力を改善することを明らかにすることができました。
本研究は、日本医療研究開発機構 循環器疾患・糖尿病生活習慣病対策実用化研究事業「後期高齢者のADL維持・改善に着目した栄養療法の開発」(研究代表者 清野裕)の一部として、関西電力医学研究所、関西電力病院、岐阜大学等の共同研究として実施され、その成果は、日本時間2023年4月22日(土)に国際専門誌Nutrients誌に掲載されました。
【問い合わせ先】
関西電力医学研究所 副所長、糖尿病研究センター 糖尿病・内分泌研究部 部長
東海国立大学機構 岐阜大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学 教授
矢部 大介
電話:058-230-6377
E-mail:yabe.daisuke.s9 @f.gifu-u.ac.jp
▶プレスリリースはこちら→ 食事からのたんぱく質摂取増が高齢者の筋力を改善
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