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2017.12.27

脂質の摂取がDPP-4阻害薬の血糖改善作用の長期維持に重要(平成29年12月28日)

【ポイント】
*DPP-4阻害薬の服用開始半年後から1年後に血糖改善作用が減弱する患者さんは日常的な食事の脂質、特に飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸の摂取量が有意に多い。
*DPP-4阻害薬の長期血糖改善効果の減弱の程度は、飽和脂肪酸の摂取量と有意な相関を示す。
*DPP-4阻害薬の血糖改善作用の長期維持には、摂取する脂質の種類や量に注意する必要がある。

【概要】
関西電力医学研究所 所長/関西電力病院 総長 清野 裕、同研究所 副所長 矢部 大介、同研究所 部長 桑田仁司らの研究グループは、DPP-4阻害薬の長期の血糖改善効果が、日常の食事中に含まれる脂質、特に飽和脂肪酸の摂取量に影響されることを見出しました。現在、DPP-4阻害薬は、わが国で糖尿病治療薬の処方を受ける患者さんの約8割に相当する400万人以上に使用されています。しかし、DPP-4阻害薬を服用開始3~6カ月後に血糖降下作用が減弱する場合があり、原因究明が急務でありました。今回、同研究所ではDPP-4阻害薬の長期血糖改善作用と食習慣に着目して研究を行い、DPP-4阻害薬の長期血糖改善効果が減弱する患者さんの特徴として脂質、特に飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸の摂取量が多いことを明らかにしました。さらにDPP-4阻害薬の長期血糖改善効果の減弱の程度は、飽和脂肪酸の摂取量と関連することも明らかにしました。これら結果を踏まえ、同グループは、DPP-4阻害薬の血糖改善作用の長期維持には摂取する脂質の種類や量に注意する必要があると指摘しています。

本研究成果は、2017年12月28日にアジア糖尿病学会機関誌「Journal of Diabetes Investigation」(オンライン版)で公開されました。

【研究成果】
関西電力医学研究所の研究グループは、関西電力病院(大阪市福島区)における2006年9月~2017年6月の医療記録から、あらかじめ規定した条件に従い、DPP-4阻害薬の単剤治療を1年間継続した2型糖尿病患者63人のデータを抽出して後ろ向きに解析しました。DPP-4阻害薬を服用開始半年後から1年後にかけてHbA1c値の推移に変化がみられなかった群(服用開始半年後から1年後のHbA1c変化量が0.4%未満の患者、53人)と半年後から1年後にかけてHbA1c値が上昇していた群(同期間のHbA1c変化量が0.4%以上、10人)に分けて、食習慣の状況や体重の変化を比較検討しました。服用開始半年後から1年後にHbA1c値が上昇した群は、変化がみられなかった群と比較して有意な体重増加が認められました。食習慣の状況をみると、HbA1c値が上昇した群では総カロリー摂取量が有意に多く、また脂質、特に飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸の摂取量が有意に多いことがわかりました。一方、炭水化物とたんぱく質の摂取量については、両群間で差はありませんでした。さらに多変量回帰分析の結果、服薬開始半年後から1年後のHbA1c変化量は飽和脂肪酸の摂取量と独立して有意に関連していることが分かりました。DPP-4阻害薬は、食事に応答して消化管から分泌されるインクレチン(GIP、GLP-1)のインスリン分泌増強作用を高めて食後血糖を改善しますが、同時にGIPのもつ脂肪蓄積作用も高めてしまう可能性があります。従って、脂質、特に飽和脂肪酸を多く含む食事を習慣的に摂取している患者さんでは、体重増加に伴いインスリン抵抗性が惹起され、長期的に血糖降下作用が障害されると考えられます。このような背景から、DPP-4阻害薬の長期血糖改善効果は、日常の食事中に含まれる脂質、特に飽和脂肪酸の摂取量に影響される可能性が明らかとなり、同薬を服用する患者さんは、摂取する脂質の種類や量に注意する必要があることが示唆されました。

【波及効果】
今回の研究から、日常の食事中に含まれる脂質、特に飽和脂肪酸の摂取量が、DPP-4阻害薬の血糖改善作用の長期維持に重要であることが見出されました。本成果は、わが国で糖尿病治療薬の処方を受ける全患者の8割に処方されるDPP-4阻害薬の血糖改善作用を長期に維持するための食事療法確立に資するものであります。さらに、日本人を含む東アジア人では、他民族と比して、DPP-4阻害薬の血糖改善効果が大きいことの理由の一部を説明しうるものであるとも考えられます。

【今後の予定】
今回の検討は、限られた症例数の後ろ向き解析であったため、今後、DPP-4阻害薬の長期血糖改善効果と食習慣を前向きのランダム化比較試験で検証し、DPP-4阻害薬の有効性を高める食事療法を確立していく予定です。

 

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図1 高脂肪食、特に飽和脂肪酸を多く含む食事を習慣的に摂取した場合にDPP-4阻害薬の血糖降下作用が減弱するメカニズム(モデル)
DPP-4阻害薬を開始後、3~6か月すると血糖改善効果が減弱する場合があり、その原因として食事療法の遵守不良が指摘されてきました。今回、DPP-4阻害薬の血糖改善効果が減弱する患者さんの特徴として、普段の食事の中で脂質、特に飽和脂肪酸の摂取量が多いことがわかりました。DPP-4阻害薬は、食事に応答して消化管から分泌されるインクレチン(GIP、GLP-1)のインスリン分泌増強作用を高めて食後血糖を改善します。しかし、DPP-4阻害薬は、GIPのもつ脂肪蓄積作用も高めてしまうため、脂質、特に飽和脂肪酸を多く含む食事を日常的に摂取している患者さんでは、体重増加に伴いインスリン抵抗性が増大され、DPP-4阻害薬の長期血糖降下作用が障害される可能性が明らかになりました。

 

【論文タイトルと著者】
論文名
Relationship between deterioration of HbA1c-lowering effects in DPP-4 inhibitor monotherapy and dietary habits: Retrospective analysis of Japanese individuals with type 2 diabetes
掲載雑誌
Journal of Diabetes Investigation
著者
Kuwata H, Okamoto S, Seino Y, Murotani K, Tatsuoka H, Usui R, Hamamoto Y, Kurose T, Seino Y, Yabe D
DOI
doi: 10.1111/jdi.12779
URL
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jdi.12779/epdf

【本研究への支援】
本研究は、下記の機関から資金的支援を受けて実施されました。
日本学術振興会 基盤研究(C)、日本糖尿病協会 若手研究助成、日本血管成人病財団 研究助成

【連絡先】
関西電力医学研究所 糖尿病研究センター
矢部 大介
E-mail: ydaisuke-kyoto@umin.ac.jp

 

PDFはこちら ⇒ DY-20161216_DPP-4阻害薬の血糖降下作用と食習慣_JDI

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