外科(神経内分泌腫瘍・乳癌)研究部

部長     河本 泉
Director   Izumi Komoto, MD, PhD

関西電力医学研究所 外科(神経内分泌腫瘍・乳癌)研究部 部長 
関西電力病院 外科 部長

研究テーマ

(神経内分泌腫瘍研究グループ)

膵・消化管神経内分泌腫瘍における悪性度分類の再評価

膵・消化管神経内分泌腫瘍における抗腫瘍薬および手術療法の有効性評価

(背景)

膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)は比較的稀な疾患であり、その悪性度評価方法や治療法は確立しおらず、議論の余地が多く残っている。特に、遠隔転移をきたした場合の治療法では、WHO2010分類でNEC(Ki-67>20%)に分類される腫瘍の悪性度分類の再評価などの問題が挙げられる。

当研究所ならびに関西電力病院では本疾患に対する新しい手術法の開発や、新薬の国内開発や国際共同治験に参加するなど本疾患の診断・治療を主導的・積極的に行っており、全国から多くの患者が受診しており、以下の研究を進行・準備している。

研究および方法

①悪性度分類再評価に関する研究

本研究はすでに国立がんセンター中央病院と愛知県がんセンター中央病院を 中心としたグループおよび京都大学消化器内科を中心としたグループと2つの共同研究を進めている。WHO2010分類でNEC(neuroendocrine
carcinoma)に分類される腫瘍を組織分化度および新たに仮説したKi-67 index分類に従い抗腫瘍薬治療の有効性や予後の解析によるNECの再分類を試みる。

②転移を有するNETに対するStreptozocinの有効性の検討

関西電力病院が参加した国内多施設共同第Ⅰ/Ⅱ相試験によって膵・消化管NETに対してアルキル化剤の一種であるStreptozocinが保険承認された。本薬剤は海外では約30年前から使用され標準的抗腫瘍薬の一つとして用いられてはいるもののその有効性に対する評価は十分になされていない。

国内多施設共同第Ⅰ/Ⅱ相試験の結果を分析するとともに、今後症例集積を行いStreptozocinの有効性の評価を行う。

一方で2011年以降、膵NETに2種類の分子標的薬(Everolims, Snitinib)と消化管NETに対してソマトスタチンアナログ製剤が保険適用となり使用されている。

Ki-67indexによる悪性度分類を行い、悪性度のより高いNETに対しては分子標的薬やソマトスタチンアナログと比較して殺細胞系抗腫瘍薬(Streptozocin)の有効性(無増悪生存期間・全生存期間の延長効果)が高いという仮定の下、Ki-67
indexに基づいた抗腫瘍薬の使い分けについて検討を行う。

③分子腫瘍マーカーに関する研究

腫瘍の予後や治療反応性を予測する因子として分子腫瘍マーカーの研究が進んでいる。膠芽腫ではTemozolomideの効果予測にMGMTのメチル化が有効であるとの報告がなされている。一方、膠芽腫に対するStreptozocinの有効性予測にもMGMTが有効であるとの報告がなされている。Temozolomide, Streptozocinとも膵・消化管NETに対して用いられており、MGMTがNETにおいても分子腫瘍マーカーとして有効である可能性がある。Streptozocin治療症例における有効性とMGMTをはじめとした分子腫瘍マーカーの検討を行う。

④ゲノムマーカーのモニタリングマーカーとしての有用性に関する研究

膵・消化管NETは、比較的稀な疾患であるためもあり、現在までに血清学的に有効な腫瘍マーカーが得られていない。本研究課題では、GEP-NET症例のゲノム解析からsomatic
mutationを同定し、このmutationをtargetに血中循環腫瘍由来DNA(ctDNA)を検出し、モニタリングバイオマーカーとする。そして、GEP-NET診療において、ctDNAが、1)再発治療の病勢評価のための定量的マーカー、2)術後の経過観察における再発の早期診断のマーカー、として有用であるかを検討する。

⑤膵・消化管NETの肝転移巣に対する手術療法の有用性検討

膵・消化管NETは高率に多発肝転移をきたし、診断時にすでに根治的切除が行えない症例が多い。一方、転移巣に対して90%以上の減量手術が可能であれば予後延長効果が得られるとの報告がある。昨年末より日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS)による膵・消化管・肺・胸腺NETの悉皆登録が開始された。単一施設のデータでは症例数が限られているが、JENTSの悉皆登録のデータを用いることでより多くの症例の集積が可能である。この悉皆登録のデータに基づき膵・消化管NETの肝転移に対する手術の有用性について検討を行う。

(乳癌研究グループ)

①乳癌の早期診断法の開発

②分子標的薬の薬剤感受性の分子機構の解明と治療効果予測

③抗がん剤使用時の頭皮冷却の脱毛予防効果

 

研究テーマおよび方法

①乳癌の早期診断法の開発

現在の乳癌の診断は、マンモグラフィー、乳房超音波、乳房MRI検査などの画像診断を元に病理検査で確定診断を行うという流れで行われる。これに対して、乳癌に対する腫瘍マーカーのCEAやCA15-3は比較的低侵襲で行える検査ではあるものの、感度・特異度とも乳癌検診・早期診断には不十分である。そこで、近年注目されている血中浮遊DNAを用いた、乳癌早期診断法の開発を行っている。

血中浮遊DNAのエピジェネティックス解析による早期診断

血中遊離メチル化DNAマーカーによる乳がん早期診断法の開発

②分子標的薬の薬剤感受性の分子機構の解明と治療効果予測

本邦で、2001年にHER2陽性転移性乳癌に対してトラスツズマブが承認されて以来、ラパチニブ、ベバシズマブ、ペルツズマブ、T-DM1、エベロリムス、バルボシクリブ、アベマシクリブといった分子標的薬が承認され、実臨床で使用されている。これらの中で抗HER2薬、ベバシズマブに対する治療効果の分子機構と治療効果予測法の開発を行っている。

③抗がん剤使用時の頭皮冷却の脱毛予防効果

乳癌の抗がん剤治療では、脱毛、爪・皮膚の変化など、外見の変化がおこり、これが患者さんに対して精神的苦痛となり、QOL(生活の質)を落とすことになっている。脱毛の予防法に、頭皮を冷却し頭皮への血流を減らすことで抗がん剤の影響を減らす方法があるが、まだエビデンスが少なく、普及していない。頭皮冷却の抗がん剤治療の脱毛予防効果に対するエビデンス構築のための臨床試験を準備している。

2021年度業績

原著論文(英語/日本語)

著者 タイトル 掲載誌名
掲載号等・掲載年
Ito T, Masui T, Komoto I, Doi R, Osamura RY, Sakurai A, Ikeda M, Takano K, Igarashi H, Shimatsu A, Nakamura K, Nakamoto Y, Hijioka S, Morita K, Ishikawa Y, Ohike N, Kasajima A, Kushima R, Kojima M, Sasano H, Hirano S, Mizuno N, Aoki T, Aoki T, Ohtsuka T, Okumura T, Kimura Y, Kudo A, Konishi T, Matsumoto I, Kobayashi N, Fujimori N, Honma Y, Morizane C, Uchino S, Horiuchi K, Yamasaki M, Matsubayashi J, Sato Y, Sekiguchi M, Abe S, Okusaka T, Kida M, Kimura W, Tanaka M, Majima Y, Jensen RT, Hirata K, Imamura M, Uemoto S. JNETS clinical practice guidelines for gastroenteropancreatic neuroendocrine neoplasms: diagnosis, treatment, and follow-up: a synopsis J Gastroenterol
56(11) ・2021
Watanabe H, Fujishima F, Komoto I, Imamura M, Hijioka S, Hara K, Yatabe Y, Kudo A, Masui T, Tsuchikawa T, Sakamoto K, Shiga H, Nakamura T, Nakaya N, Motoi F, Unno M, Sasano H. Somatostatin Receptor 2 Expression Profiles and Their Correlation with the Efficacy of Somatostatin Analogues in Gastrointestinal Neuroendocrine Tumors Cancers (Basel)
14(3) ・2022

 

総説(日本語)

著者 タイトル 掲載誌名
掲載号等・掲載年
河本 泉 膵神経内分泌腫瘍の局在診断 消化器外科
4月臨時増刊・2021

 

メンバー

部長 河本 泉
上級特別研究員 佐藤 史顕
上級特別研究員 吉澤 淳
上級特別研究員 多代 尚広
上級特別研究員 本田 茉也